どうも、森博嗣さんの大ファン歴10年以上のもりひろです。
S&Mシリーズ2作目『冷たい密室と博士たち』の魅力を余すことなく語り尽くします。
ネタバレありませんのでご安心ください。
『すべてがFになる』で衝撃的なデビューを果たした森博嗣さんの2作目が『冷たい密室と博士たち』です。
「衝撃的なデビューにしたい」という編集者の意向で『すべてがFになる』が最初に刊行されたのですが、森博嗣さんの中では、もともとは本書が実質上のシリーズ第1巻でした。
『すべてがFになる』と比べると地味〜な内容に感じてしまうかもしれませんが、本書『冷たい密室と博士たち』は純ミステリィ、ミステリィの王道の王道的な内容と言えます。
好き嫌いが分かれることなく、ミステリィファンなら誰しもが楽しめる内容になっているのではないでしょうか。
衆人環視のなか、実験室で起きた不可思議な密室殺人劇。
同僚の誘いで低温度実験室を訪ねた犀川助教授とお嬢様学生の西之園萌絵。だがその夜、衆人環視かつ密室状態の実験室の中で、男女2名の大学院生が死体となって発見された。被害者は、そして犯人は、どうやって中に入ったのか!? 人気の師弟コンビが事件を推理し真相に迫るが……。究極の森ミステリィ第2作。
講談社BOOK倶楽部(森博嗣ONLINE)より
『冷たい密室と博士たち』の魅力
西之園萌絵が事件にのめり込んでいく姿に危うさを感じる
S&Mシリーズの魅力は登場人物の人間としての成長が感じられるところです。
特に西之園萌絵の成長が見ていて楽しいのですが、この時期はまだまだ発展途上の段階。
本書『冷たい密室と博士たち」では大学2年生の西之園萌絵(前作『すべてがFになる』の1年後)。
今回は大学構内で起きた殺人事件に、西之園萌絵はどんどん首を突っ込んでいきます。
単独行動が災いして命の危険にあう場面にもあったりして、読者としてはハラハラドキドキです。
ミステリィ小説には、警察でも探偵でもないのに事件にのめりこむキャラが必要ではありますが、西之園萌絵の事件へののめり込み方にはどこか危うさを感じてしまいます。
西之園萌絵は4年前に飛行機事故で両親を亡くした暗い過去を持っており、その傷は癒えていません。
今後、西之園萌絵がどのように成長していくのか非常に楽しみです。
今の彼女は、遮眼帯をつけた馬のように、目の前の狭い角度の視野しか持っていない。自分の秋雨いの三百六十度を、彼女はまだ見ていないのだ。いや、三百六十度にも、さらにまだ二軸の自由度がある。
第3章 勇者と死者の謎
本筋とは関係ありませんが、ホンノ少しだけネタバレさせてください。
10年以上前に本書を一度読んだ時からずーっと僕の記憶に残っている場面です。
それは、犀川創平の講座の助手である国枝桃子が電撃結婚する場面です。
国枝桃子は、女性でありながら背が高く、髪も短く表情に変化がない。また服装も男と変わらないためよく男性と勘違いされるが、本人は気にしていない。遠慮のひとつも無い態度で犀川を苛立たせることも多い。常に不機嫌に見えるため、学生からは怖がられる存在。事件にも興味が無い。(Wikipediaより)
結婚報告を受けた犀川創平は「国枝桃子の結婚は殺人事件と同じくらいセンセーショナル」と感じながら、国枝桃子の結婚について想像する場面が最高に笑えました。
(信じられない・・・、まったく・・・)
第1章 始動する思考
どう考えても不思議だった。
国枝桃子が結婚する?いったい、誰と?
何のために?
国枝が、誰かと一緒に生活をするなんて、とても信じられない。
何が目的だろう?
森博嗣作品の魅力
理系的で超論理的
森博嗣さんといえば「理系ミステリィ」の大家といっても過言ではありません。
トリックも超論理的です。
ネタバレになるのでトリックについてはお話できませんが、科学的な知識の奥深さや学問を追求する者として矜持のような熱い想いが伺える箇所があちこちに散りばめられています。
面白ければ良いんだ。面白ければ、無駄遣いではない。子供の砂遊びと同じだよ。面白くなかったら、誰が研究なんてするもんか。
第2章 整理される事前
言葉選びが秀逸
理系ミステリィだからといって決して硬い内容ではないのが、森博嗣さんのすごいところ。
巧みな文章表現で、登場人物たちのウィットに富んだ会話が展開され、文章のテンポが良くてとても読みやすいです。
名言とも格言とも思える言葉の数々に出会えることができます。
真夏の夜は、歯医者の待ち時間のように、長い。
第1章 始動する思考
魅力的なキャラ
犀川創平や西之園萌絵(S&Mシリーズ)や瀬在丸紅子(Vシリーズ)など、各シリーズの主人公はみんなとても天才かつ魅力的なキャラがたくさんいます。
脇役キャラだって魅力的です。
本書で初登場した喜多北斗(犀川の同僚で土木科学助教授)も魅力的なキャラの一人。
高校時代からの友人で、気の許せる喜多相手だからこそ見せる犀川の新たな一面を引き出してくれる貴重な存在です。
奥から片手を挙げて喜多が言った。「散らかっているだろう?」
第3章 実験と観察 ※喜多の助教授部屋を犀川が訪れた場面
(散らかっている?)
そんな自動詞は不適当だ。何か猛烈な哲学を感じさせる散らかり方である。
哲学的で心が“整う”
森博嗣さんの本には、生きるとは何なのか?という哲学的な深い思索が随所に出てきます。
忙しい毎日を生きる僕たちに、一旦立ち止まって何が大切なのかを考えるキッカケを与えてくれます。
森博嗣さんの本を読むと、なんか心が整うような気持ちになるのです。
僕が森博嗣さんの本にハマったのもこれが一番の理由です。
「プライドが一番大切なものなんですかね」本部長が呟く。
第13章 真実の一部
「そうですね。人間に残されているものは、プライドだけですから」犀川は同意する。
S&Mシリーズとは
本シリーズはN大学工学部助教授の犀(S)川創平と超お嬢様のN大学生の西之園萌(M)絵が主人公で全10作品です。
すべてがFになる/1995年11月→1996年4月
冷たい密室と博士たち/1995年9月→1996年7月
笑わない数学者/1995年10月→1996年9月
詩的私的ジャック/1995年11月→1997年1月
封印再度/1996年2月→1997年4月
短編集・まどろみ消去/1996年春→1997年7月
幻惑の死と使途/1996年7〜8月→1997年10月
夏のレプリカ/1996年8月→1998年1月
今はもういない/1996年11月→1998年4月
数奇にして模型/1997年3月→1998年7月
有限と微小のパン/1997年6月→1998年10月
短編集・地球儀のスライス/雑誌掲載作品および書き下ろし→1999年1月
※初稿完成時期→実際の刊行時期。『すべてがFになる』文庫版解説より
初稿完成時期からも分かるとおり実質上の第一作目(森博嗣さんの処女作)は『冷たい密室と博士たち』でしたが、「デビュー作は派手な方が良い」という編集者の意向で『すべてがFになる』(メフィスト賞受賞)が第1巻として刊行されました。
ミステリィとして楽しめることはもちろんですが、犀川創平と西之園萌絵の関係性や人間としての成長が感じられるなど、単なる謎解きだけでないシリーズ全体のストーリィとしての面白さが魅力だと思います。
森博嗣さん自身も「S&Mシリーズはミステリィではないテーマがコアになっている」と公言しています。
それが何なのか僕にもまだわかりません…もっと読み込まないと!
犀川語録
さいごに、犀川語録を紹介してオシマイにします。
問題を解くことがその人間の能力ではない。人間の本当の能力とは、問題を作ること。何が問題なのかを発見することだ。(第1章 始動する思考)
ではまた。
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